e)輻射(=放射=電磁波)
太陽からのエネルギーは光(電磁波)として地球に届いています。その中に遠赤外線も含まれています。遠赤外線は身体を構成する分子と振動波長が同じで、人は遠赤外線に当たると分子が活発に動くことで熱が生まれ暖かくなります。芯から暖まるという言葉がありますが、そのことです。逆に氷に手をかざすと冷たく感じるのは、身体から遠赤外線が氷の方へ放射され、分子の活動が不活発になるので体が冷え冷たく感じるのです。
f)体感温度
冬、部屋の温度が20℃だとしても寒く感じてセーターを着ることがあると思います。逆に、5月の気温が20℃の時、セーターは暑くてとても着て入られません。このことから体感温度は単に空気の温度だけではないことは容易に想像がつきます。体感温度は身体に触れる空気の温度と身体を取り巻く周囲からの輻射温度により決まります。
端的に言うと、空気の温度と周囲の輻射の温度を足して2で割ったのが体感温度です。
冬の部屋の場合、室内空気温度が20℃、床の表面温度が14℃、4周の壁の温度がそれぞれ15℃そして天井が21℃とすると、輻射の温度は14+15×4+21=95です。95を6面ですから6で割ると15.8になります。体感温度は空気温度+輻射温度を2で割りますから、20+15.8=35.8それを2で割ると17.9となり、体感温度は17.9℃となり、薄手のセーターが必要になります。
g)人を直接暖めずに建物を温める
理想の暖房は冬であっても家の中は5月を基準に考えると分かりやすいです。東京の5月の平均気温20℃前後で相対湿度60%前後です。そのためには空気温度だけではなく、部屋の床、壁、天井等の周りの温度も20℃位であれば理想的です。そのためには断熱材をしっかり入れて、隙間風がないことが重要です。
冬季の温度湿度の実際は外気の相対湿度がかなり低いので、室温24℃、相対湿度40%くらいで、絶対湿度を7g/㎥以下にならないようにすることがウィルス感染対策として大切です。
夏季は室内温度と外気温の差があまりない方が良いです。その場合には相対湿度が60%以下で、そよ風の空気の流れがあれば、まあまあ快適です。この場合も屋根の断熱性能と日射対策が重要です。
またこの時期の相対湿度は80%を超える日が多く、ルームエアコンで相対湿度を60%以下にするには少々能力不足です。
エネルギーの使用量を考えると、冬季は外気温5℃から室温を24℃くらいまで19℃上げなければなりません。それに反して夏季は外気温34℃を室温28℃にしても6℃くらいの差です。夏季のエネルギー使用量はAPF値が5以上のエアコンを使用すれば特に少なくなります。
ちなみに、1年間のエネルギーの使用量の割合は暖房が22%で冷房が9%くらいです。
h)間欠暖房と常時暖房
欧米では住まい全体を常に暖める常時暖房が当たり前です。しかし、それではエネルギーの使用量が増加してしまうので、断熱性能を高めて且つエネルギーパス制度で家の燃費が明確になるようにしています。
EU加盟国ではパッシブハウス基準を設けていて、ドイツの新築住宅では暖房エネルギーを法律で0にするように求めています。
隙間風の多い日本の住まいは人がいる時だけ部屋を暖める間欠暖房が主流です。今後は省エネ基準も強化され、断熱性能の高い住まいが増えてくると、住まい全体を暖める快適で人に優しい常時暖房が当たり前になり、家の燃費が日常会話で交わされるのもそう先のことではありません。
i)セントラルヒーティング設備(常時暖房)
高度成長期の1970年代の日本でもアメリカに習いお湯で床を暖める床暖房やファンコイルヒーターによるセントラルヒーティングが流行しました。しかし、努力義務の省エネ基準(1980年)もできたばかりで、断熱性能も低く、隙間風が多い日本の住まいではエネルギーコストが増大した割には、部屋が暖まらないために導入した多くの家で使用を中止しています。それでも鉄筋コンクリート造の住宅は隙間風がないので、常時暖房にすればコンクリートが蓄熱体になり温熱輻射で家全体が暖まり快適になります。輻射(遠赤外線)は電磁波、つまり光ですから、光は1秒間に地球を7周半回ります。家の中でエネルギーを吸収されながら反射を繰り返してコンクリートを暖めます。
j)輻射式冷暖房設備(常時暖房)
パネルにヒートポンプで作られた冷温水を循環させるのが輻射冷暖房機です。冬は温水を30℃~35度に、夏は冷水を13℃~18℃で循環させて暖房と冷房をします。冬は体温より低い温水によるパネルからの輻射で部屋が24℃に暖まります。夏はそれほど低くない冷水による輻射(正確には熱のエネルギーを奪います)で室温が28℃前後に保たれます。パネルについた結露水で室内の湿度を60%以下に抑え快適です。
k)シミュレーションの確かさ
快適な体感温度の指標は①気温、②輻射、③気流速度、④湿度、⑤着衣量そして⑥代謝量(活動量)により決まります。これら全てを計算式で確認できるまでは至っていませんが、しかしエネルギーパス制度による設計時のシミュレーションと実際の結果に大きな違はほとんどないくらい正確になりました。
暖房・冷房・照明・調理そして給湯の年間のエネルギー消費の割合、また住まいの屋根・外壁・窓・基礎そして換気の部位別の熱損失量などが細かく正確にわかり、エネルギー使用量のランニングコストも月別で分かります。
最後に
住まいも世代を超えてまたすみ手が変わりながら住み続ける時代になってきました。そのためには温熱環境という基本的な性能が高く、エネルギーに大きく依存しない快適な住まいが求められる時代がそこまで来ています。暑さ寒さを我慢する家ではなく、少なくとも身の回りから温熱環境を改善することを考えてみてください。
あたらしい快適な住まい〜冬暖かく、夏涼しくする [1]
夏の住まいの快適性の指標について
ED3504TE邸