古民家の通風
鎌倉時代末期の吉田兼好著、徒然草第55段に「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。」の有名な文がある。
それに倣ったわけではないが、夏の高温多湿によるカビや木材の腐朽を防ぐために、伝統工法の家は隙間風だらけで、特に地面からの湿気を逃がすように床下は風の通りやすい構造である。
この古民家の優れた特徴はアルミサッシなどによる改修がなく、和室は障子と雨戸のみで当時の良い佇まいが残されていることである。このことで一層風通しが良くなり、材木の腐朽もなく健全な状態が保たれた。現代の住宅でも隙間風がある。断熱材を入れても冬に寒いのは基本的な構造が変わっていないからである。今後は隙間風をなくすことが大切である。断熱材を充填して気密シートを張り、そしてカビや材木の腐朽をさせない工法の家も建ち始めている。
古民家の木材
7世紀後半に再建された法隆寺回廊には約千年前の太い柱があり、思わず手を触れてみたくなる。木には質感と温もりそして歴史を感じる。
この古民家の太い柱や立派な梁は、同じ気候風土の周辺で育った木材を使用している。当時は運搬が大変なこともあり、裏山などからめぼしい木を切り出してきて使った。また鉋で削る作業を減らすためか床下などの見え隠れの材は必要な面のみにしか鉋が掛けられていない。また、自然乾燥させながら樹皮や虫に食われやすい白太(辺材)を取り除いている。白太には水や栄養が豊富でそれ故に虫害や腐朽しやすい。赤太は芯材(ヒノキは芯材も白い)と言われる部分で粘り強く固く栄養はないので虫害を受けにくい材である。この古民家の柱梁は赤太のみで組まれていて、変形も少なく虫の食害や腐朽もなく健全である。軒先の先端の茅負材(かやおいざい)の一部に白太があり穴だらけで見事に虫害を受けていた。永く住まいを保全するためには材選びからしなければならないことを痛感する。
木材の洗い屋
京都に江戸時代創業の俵屋という昔の面影を残しながら現代の感性に刺激を与える旅館がある。俵屋の美しい木材を丁寧に手入れをする職人「洗い屋」がいる。1年の汚れを灰汁で洗い流す。昔の灰汁はコメの桟俵を燃やして、お湯に入れて漉して灰汁を作り、竹の簓でこすって洗う。今は苛性ソーダーと刷毛を使い、濃度や使い方は「洗い屋」の企業秘密である。強い液を使えば木が傷み樹脂分が抜けて風合いが損なわれてしまう。
この古民家も煤で黒くなった木材を全面的に洗い屋により洗ってもらった。職人も赤太の木材は洗い甲斐があるらしく精を出して見事に美しさがよみがえった。先代の住まいの建具を再利用した板戸は洗いにより見事な木目が浮き上がり感心させられた。洗いですっかり綺麗になった柱と梁組を見るとまさに当時の大工の息遣いが聞こえてくるようだ。
古民家改修(3)〜断熱改修〜