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木造
古民家改修(4)〜輻射暖冷房〜

放射冷却
 「今夜は放射冷却により冷え込みます。」という天気予報を耳にしたことがあると思う。地球の周囲は-270℃の極寒の暗黒宇宙空間である。星が綺麗に見える雲がない湿度が低い夜は、宇宙空間へ向かって地表から熱が放射され、気温が低くなり底冷する現象が起きる。これが放射冷却である。雲や湿度を持った空気は断熱材にもなるので、雲の多い日は放射冷却が少なくなる。

地球は昼間に太陽からの光の熱:電磁波(紫外線や可視光線そして近赤外線)を吸収し、夜になると宇宙空間へ熱を放出し、平均気温を約15℃に保っている。最近は気象庁によると100年あたり0.74℃の割合で上昇をしている。熱の移動は「放射」、「対流」そして「伝導」である。私たちは熱いコップを触り「熱い!」と思い、「伝導」を身近に感じるけれど、自然界の熱の移動は「放射」と「対流」の方が多い。熱の移動は放射が一番多く、自然界では7割、住宅の中では5割といわれている。
 そしてこの古民家の冷暖房は「放射」を利用している。

暖房は放射が主体
 炉端焼きという居酒屋が流行したのは1980年頃。炭火(遠赤外線)で野菜や魚介類を目の前で焼いて美味しい料理を提供する。火の揺らぎは人を癒し又惹きつける。茅葺き古民家を見学すると囲炉裏で薪を焚いていることがある。防虫のために定期的に煙で茅葺屋根を燻(いぶ)さなければならないが、煙りがたちこもりそもそも暮らしが大変である。

 欧米では蒸気を利用したラジエーターで部屋全体を暖房をしているところが多い。ラジエーターは放射(radietion)による暖房設備で、これを暖房という。焚き火は放射により暖かいが、背中は寒い。囲炉裏や火鉢そして石油ストーブ、掘り炬燵なども火や電熱器による放射により暖を採っていて、これを採暖という。最近の日本ではヒートポンプによるルームエアコンによる暖房が主流である。ヒートポンプは省エネではあるが、暖めた空気を人に当てる対流で暖めている。住まいの断熱性能を改善させるならば、人に優しい放射による暖房にそろそろ戻るべきではないだろうか。
 建築では放射を輻射(ふくしゃ)と言い、この古民家は断熱性能が良いので、ランニングコストが抑えられる常時輻射冷暖房設備を採用している。

輻射冷暖房
 ルームエアコンの普及率(出展:消費動向調査、内閣府)は1967年の2.8%から1985年の52.3%を経て2020年には91.0%にも達している。これはヒートポンプの性能の向上の結果である。今夏のように酷暑が続き、熱中症が懸念されていてもルームエアコンを不快と感じ使用を控える人もいる。その理由は自律神経失調である。詳細についてはコラム「夏の住まいの快適性の指標について」を参照していただきたい。

 この古民家は昭和2年(1927年)の建設当初の佇まいと、仏壇、押板と神棚による房州に残る古民家の特徴をそのまま残しながら、新しい設備の台所、浴室や洗面所などを追加している。特に冷暖房設備は、和室の雰囲気を損なわずに大きな空間のランニングコストを抑える設備の選定が課題であった。和風に合う縦格子とルームエアコン並みのランニングコストの「常時輻射冷暖房設備」が最適であり、改修を具体化する決め手にもなった。

 この設備の大きな特徴はヒートポンプにより冷温水を作り、冬は35℃前後の湯による熱放射で暖房し、夏は15℃前後の冷水による冷放射で冷房する。冷房時の除湿量はルームエアコンよりも多いが、常時稼働させても湿度が一定で快適である。

 ここからは少々科学的な話になる。全ての物体は遠赤外線を出している。遠赤外線は光と同じ速度で1秒間に地球を7周半まわる速さで移動する。絶対零度(−273℃)になると全ての物体は遠赤外線を放出しない。遠赤外線により人が暖かさを感じるのは身体内の分子が活発になるからであり、冷たさを感じるのは分子がエネルギーを失い不活発になるからである。氷に手を当てると人から遠赤外線が氷へ放射され、人の分子のエネルギーが放出され不活発になり冷たく感じる。

 常時輻射冷暖房設備は風も音もない設備で、常に遠赤外線が光の速度で室内を飛び交い、冬は室内へエネルギーを放射し、夏は室内からエネルギーを吸収することで冷暖房をしている。

仏壇と床の間の原型の押板

仏壇と床の間の原型の押板

和室の常時輻射冷暖房設備

和室の常時輻射冷暖房設備

ダイニングの常時輻射冷暖房設備

ダイニングの常時輻射冷暖房設備

ダイニングと屋根裏部屋用の常時輻射冷暖房設備

ダイニングと屋根裏部屋用の常時輻射冷暖房設備

脱衣室のタオル掛けにもなる常時暖房設備

脱衣室のタオル掛けにもなる常時暖房設備


古民家改修(5)〜瓦の再利用〜

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