Column

木造
古民家改修(3)〜断熱改修〜

日本の気候
 温暖で四季のある日本の気候は、豊かな森林と大地からの恵みをもたらすだけではなく、日本人独自の感性と、自然への畏敬の念を持ちつつも自然と共にある暮らしを育んできた。特に夏の高温多湿と多雨は日本の風景を独特のものにしている。世界最大級のブナの原生林が残る白神山地もその一つだ。湿度の高い森では樹木に耳を当てるだけで水の流れる音が聞こえ、豊富な水がブナ林を育んでいることを体感できる。住まいにおいても、冬の寒さは火を焚き採暖でしのぐことができるが、夏の高温多湿と多雨ではそうはいかない。大きな屋根を掛け風通しを工夫するなど、住まいの形と簾を付けるなどの暮らしの衣替えを発展させ洗練させてきた。

 登呂遺跡にみるように、縄文時代は地面に穴を掘り、屋根をかける竪穴住居が初期の住宅であり、また地熱の暖かさ(放射熱)を得るために1m程土を掘った住居が青森県の三内丸山遺跡にある。雪深く積もる地域に縄文時代の遺跡があることが奇跡のように思える。両遺跡には竪穴住居と掘立の高床式建物があり、私たちの住まいの系譜は高床式建物が発展した形になる。湿気対策を考えると自明の理である。

日本の住宅は随所に隙間を工夫した風通しの良い夏向きに造られている。その基本は今も変わらない。今回のこの古民家の冬向けの断熱改修の難しさは、住まいが夏向けに造られていることにある。これから詳しく述べるが、これからの断熱改修は、如何に隙間風を止めなお且つ木材を腐朽(ふきゅう)させないかである。この古民家の初期の計画では隙間風を全てなくすのは難しいと考え、部分的な断熱改修としていた。

暖房と採暖
 ヨーロッパに多い石造住宅では、大きな暖炉(放射熱)で部屋全体を暖めている。石造建築は気密性が良く隙間風がなく、熱が外へ逃げないので部屋全体が暖かくなる。「暖房」はこのように部屋全体を暖かくすることである。
 日本でも7世紀後半の奈良県桜井市にある文殊院西古墳は精巧な石造であるが、高温多湿な気候が理由なのか、それ以降に石造建築は存在していない。

 部屋全体を暖める「暖房」は隙間風が多い日本の木造建築では無理なために、火から直接暖を採る「採暖」が現在も多く使われている。石油ストーブや炬燵がそれになる。このように「暖房」と「採暖」には住まいの隙間風が大きく影響している。そして両者ともに熱源は放射熱(遠赤外線)である。遠赤外線は電磁波であり、その波長はおよそ4〜1,000μmの範囲にあり、人が最も暖まるのは10μmの時である。ちなみに、太陽光の紫外線、可視光線そして近赤外線も電磁波であり、電子レンジやスマホの電波も高周波電磁波である。電磁波は私たちの暮らしの身近にある。

玄関土間の囲炉裏

玄関土間の囲炉裏

通風と隙間風
 日本の住まいは暑さ寒さをしのぐことだけではなく、自然の豊かさを満喫することもできる。爽やかな風が吹く春と秋には、障子を開け放ち庭と一体になった室内を楽しみ、その感性が日本の暮らしの文化を育んでいる。戦後活躍した白洲次郎の自伝の中には、寒い朝父親が次郎の部屋の庭に面する障子を開け放して起こす描写もあり、日本人の暮らしが垣間見える。日本の住まいは自然を感じる通風と庭と一体になる開口部の大きさに特徴がある。
 一方隙間風は木材の腐朽やカビを防ぐため、住まいにとっては重要な要素である。

この古民家は隙間風があったからこそ長い間健全な状態が保たれていた。特に地面から湿気が立ち上がる床下はコンクリートの基礎もなく木製のガラリで開放的である。また、太い柱も外と内から見える真壁造で土壁との間に隙間がある。一番の隙間風はアルミサッシのない障子と雨戸である。風が吹くと土ほこりが室内に入るほど良く換気されていた。

和室の壁と柱の隙間

和室の壁と柱の隙間

梁と壁の隙間

天井裏の梁と壁の隙間


床下は風通しが良い

床下は風通しが良い

広縁側の隙間の多い障子

広縁側の隙間の多い障子

冬と夏の気密
 二酸化炭素削減や人の健康を考えると、今後の住まいには断熱材は欠かせない。しかし隙間風がある状態で断熱をすると、暖かい空気が壁の中に入り冷やされた所で結露を起こし、建物に腐朽菌とカビを発生さてしまう。そのようにさせないためにも、如何に隙間風を無くすかが重要である。

 冬季は、室内で発生した湿気を壁の中に入らないように室内側に気密シートを張り、隙間風をなくすことが出来る。しかし夏季は外部の方が気温が高く、外壁側は防水透湿シートなので空気と共に湿気が壁体内へ入ってしまい、室内側の気密シートで結露してしまう。そうならないようにするには、クーラで冷えた室内側へ湿気を放出する透湿シートでなければならない。このように冬には気密になり、夏には透湿になるシートを可変透湿気密シートと言う。

 この古民家では、壁と屋根面の室内側に可変透湿気密シートを張り、冬も夏も温度が大きく変化しない床下に接する床面には気密シートを張っている。注意する点は、気密シートを張らずに断熱材を充填しただけでは、最初は暖かい室内になり快適だと思うが、時と共に壁体内に腐朽菌やカビが生じてしまい、再度改修が必要になり大変なことになってしまうことである。

断熱改修
 冬のラグビー観戦には、椅子から伝わる冷たさを防ぐために折り畳式断熱マットとひざ掛けは必須で、更にホットワインがあればとても身体が暖まる。断熱材が充填されている家でも、夏の2階の部屋は暑く、天井から熱したフライパンと同じ放射熱を感じた経験を持つ人が多いのではないか。屋根面は壁面より太陽の日射を多く受けるため、断熱材自体が熱を貯め、天井からの放射熱を熱く感じるのが原因である。それを防ぐためには屋根は壁の2倍以上の断熱材厚にする必要がある。古民家は隙間だらけで構成部材も多く、また意匠性を重視するので断熱改修が難しい。

 この古民家では、風通しの良い床下空間はそのままとして床レベルで断熱をしている。また、壁は意匠に大きく関わるので、①内側に断熱する部分と②外側に断熱する部分、そして範囲は小さいが断熱をしないで土壁だけの部分などに細かく分け、適材適所に断熱している。断熱材をしない土壁は面積も小さく調湿材なので結露の心配はなく、快適性にも影響はないが、熱損失が増えるのでランニングコストは微増加する。屋根面は小屋裏の美しい梁を見せて断熱をするか小屋裏を見せないで天井面に断熱材を置くか、2通りの方法がある。今回はコスト増にはなるが、前者としている。また、障子の外側には③木製複層ガラス戸により断熱性能を改善させていて、広縁部分は外部扱いとして断熱をしていない。外観を変えない手法でもある。

 断熱材部分はボードを貼り左官工事による顔料(水や油に不溶の色粉:酸化黄)入りプラスター塗り仕上げとしている。台所と食堂の天井を撤去して屋根裏まで吹き抜けとし、小屋裏の美しい骨組みを見せている。食堂の床から小屋裏の一番高いところまでは約6mの高さがあるが、冬、冷たい空気が下に溜まることはなく、上下の温度差は2℃程度であり快適である。

①内側の断熱:ネットの中に断熱材を吹き込む

①内側の断熱:ネットの中に断熱材を吹き込む

①内側の断熱材吹き込み

①内側の断熱材吹き込み

②外側の断熱材左から室内側の可変透湿機密シート、断熱材、透湿防水シート

②外側の断熱材左から室内側の可変透湿機密シート、断熱材、透湿防水シート

③新たに追加した木製サッシ

③新たに追加した木製サッシ


古民家改修(4)〜輻射冷暖房〜

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